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『明日』

『明日』:ジョン・マイア・ソリア

まるで昨日のことのように思い出す
「大きな教訓」という名で
歴史の教科書に載っているであろう
出来事を

そのとき全てが変わったからだ
そのときまで僕らが知っていた世界
それを「正常」な世界と
僕らは呼んでいた

「正常」な世界を動かしていた
社会の体制が
僕らを死の淵に立たせた

世界中であっという間に
何千もの人が死に始めた
最も豊かな国でも
最も貧しい国でも
同じように人々は死んだ
そのうちのほとんどの人は
前もって備えていれば
今も元気にしていたはずだったのに

こんな社会は正常ではないと
僕らは気づいた
死んだ人たちのためのベッドが
足りなくなったとき僕らは気づいた
呼吸器が不足したとき
病から身を守る十分な方法がなくなったときに
僕らは気づいた
もう手遅れだった
死なないよう
死者を増やさないように
僕らは家に閉じこもった
感染した人々のため
僕は詩を書き始めた

その間も
死は世界中に広がり続けた
法律も 柵も 鉄条網も 海も
意味をなさなかった
軍隊も警察も役に立たなかった
自分たちが支えてきた社会体制を
止めるものは何か
僕らは初めて思い知らされた
テレビからは
生活用品や食料を求め
裕福な市民が列をなす姿が流された
僕らは呆気にとられてそれを見ていた
通りには
臨時の巨大な遺体安置所や
野外病院ができたと報じられた

社会の体制は
命を救うものではなかった
禍が降りかかりつつあることさえ
教えてくれなかった
権力を見せつけ うぬぼれて
ただ ウイルスがやってくるのを
待っているだけだった

だが ウイルスは
世界中のあちこちで
社会の体制を止めた
生産力を持たない
消費をしない人間を軽んじる
そんな社会の体制を止めたのだ
「野垂れ死ね、老人ホームで最期を迎えろ」と
僕らに言い放った
社会の体制を止めたのだ

貧しい人達は
いち早くこの世を去った
だが 蓄えられた巨万の富さえも
命の保証はしなかった
ずっと教え込まれてきた
自力救済という方法が
解決策ではないことを
僕らは初めて気づいたのかもしれない
僕ら一人一人が
みんなを救うこと
それが唯一の解決策であることを
僕らは初めて気づいたのかもしれない

そのとき僕らの前に
かつてなくはっきりと現れた出来事
それを僕らは「大災害」と
呼ぶことになるだろう

ほんの一握りの人達が
世界の富の半分を持っていたとしても
大災害は
みんなに平等に与えられた
死の落とし穴と化した
社会の体制を内側から
徐々にむしばんできたウイルスに
立ち向かうための十分な備えが
世界中のほとんどの人にはなかった
この世界にある大きな不公平が
僕らを苦しめてきた

この大災害を止める手立てが
僕らにはなかった
僕らは感染を抑えられなかった
白人の西洋男性が作り出した
全能なるこの世界にいる
僕らでさえも
できることはなかったのだ

何十年ものあいだ
人や自然
命やコミュニティをそっちのけにし
どうして僕らは
生産や自分の利益や消費を
優先してしまったのだろう?
労働力をしぼり取り
女性の人権を侵害することを前提とした
法 慣習 構造を使い
なんで僕らはこんな社会体制を
作ってしまったのだろう?

最悪なのは
どうしてこれほど長い間
僕らはこの社会の体制と共に
過ごしてきてしまったのだろう?

どうして僕らは
すべてを差し置いて
社会の体制を優先させたのだろう?
みんな一緒に
行けるかもしれない場所に
一番乗りをしたかったのだろうか?
自分たちの住むところで
作ることができる食物を
なぜ世界中のあらゆる場所から
飛行機や船を使って
取り寄せるようにしたのだろう?
一握りの人だけが
あんなに富を蓄えていたのに
みんなが生きるために
最低限必要なものを
なんで僕らは持っていなかったのだろう?

大災害の数週間前に
近所の民間のゴミ処理場で
2人の従業員が
ガラクタの下敷きになった事故を
僕は思い出した
その事故は
そのとき僕らが優先していた
価値を表しているかのようだった

僕らの生活で
正常なものとして
受け入れてきたものが
このパンデミックの中
僕らに牙をむいた

これらの価値は
僕らを使って
何をしていたのだろう?

家に閉じ込められた僕らは
社会の体制すべてが
もう役に立たないことに気づいた
テレビに流れる広告のほとんどは
急に的外れなものになった
広告は僕らを消費者に変えたが
外出できないこの数週間で
僕らは
広告のターゲットではなくなっていた
僕らの幸せと強さの価値観は崩れた
大切なものは
広告が売りつけてきたものではない
広告が売りつけてきたものは
命を救えなかった

ワケのわからないもの
足りないもの
潜んでいた才能
夢 幻影など
僕らの最高と最悪が明らかになった
気力が衰えないように
歌や本 映画やドラマなどに
僕らはすがりついた
多くの人が自分の限界を思い知った
限界を越えてしまった人もいた

まるでSF映画のようだが
現実に起きたことなのだ

この状況に打ちのめされた
友達や家族のために
詩を書いてほしいという願いが
ずっと僕のもとに届いていた
隔離された感染者
医療関係者
故人
妊婦
悲しむ子供たち
あらゆるうつ病患者
生まれたばかりの赤ん坊のために
詩を書いてほしいと
僕は言われ続けていた
テレビの報道は
この惨劇を十分伝えていないことに
僕は気づいた
彼らのために詩を書きながら
僕はたびたび涙を流した

生活が社会の体制に乗っ取られていた
この事実に僕らは抵抗し始めた
自分を大切にする
新しい生活様式を考え
コミュニティ内の生活の良さを
理解し始めた

工場や小さい施設で
自分の命を救うための装備を
僕らは自ら作り始めた
新たな思いやりの仕組み
住民同士が助け合うための
ネットワークを作った
僕らは今まで以上に
周りの人に関心を寄せていた
これらは新しい生活様式の芽生えだった
これらは
「大きな教訓」がもたらした
今の僕らへの遺産だった

だが 死者と感染者数は増え続けた
ニューヨークでは
共同墓地用の穴が掘られた
エクアドルのグアヤキルでは
死者が路上に放置された
イタリアのロンバルディアでは
棺をたくさん積み込んだ
軍用トラックが町を行き交った
スペインのマドリードでは
仮設展示場やスケートリンクに
死者が安置された

僕らが徐々に死に近づき
社会が壊れていく一方で
明らかに自然は息を吹き返していた

川は浄化され
大地は膿を出し切った
空気はきれいになり
空は澄み渡り
世界中の海は穏やかさを保っていた
死が充満する環境で
生命は華開き始めた

僕らが唯一望んでいるのは
深呼吸をすること
みんなと抱き合うこと
家庭を守ること
みんなとおしゃべりをすること
食料の買い出しに
出かけられるようになることだった

だが 社会の体制は
動きを止めなかった
社会の体制は
自らを食い潰し
自らを養うだけの存在なのだ
そしてどんな状況でも
止まることもできず
僕らを
貧しい者から順番に
やがて自分は裕福だと信じる人まで
むさぼり食うのだ

家の外では日が昇り
その光が
歌 拍手
インターネット・ミームや
死に満ちた異常な環境を
より一層奇妙なもののように映し出した

詩を捧げようとしていた
患者の何人かがこの世を去った
そんな知らせが僕のもとに届き始めた

疫病そのものよりも
疫病が去った後の方が大変だった
僕らの砂の城を崩すには
一つ目の波だけで十分だった

今まで僕らの財産として
大切にしてきた全てのものが
いきなり僕らを捕まえ 苦しめた
財産を維持する力が
僕らになかったからだ
社会の体制は容赦なかった

社会の体制を支配する人達も
反応した
みんなの怒りが爆発する前に
世界中の目にさらされた穴を
早く塞ぎたかったのだろう
その時まで
巨大で絶対的な社会体制が揺らぐのを
僕らは誰一人として
見たことがなかったからだ

既に警告が発せられていたことを
多くの人が覚えていた
その他の多くの人は
それをすっかり忘れていた
この新たな現実を目にし
打ちのめされ 怒り
目覚めた人達により
多様性を認める
新たな社会の多数派が
実際に形成されつつあった
生まれも考えも階層も違う人達が
新たな多数派になりつつあった
世界中で生まれた
大きな一つの流れは
いやだ、もう終わりにしよう、
と言った
もうこんなことやっていられない、
と言った

この世界規模の危機は
世の中の変わり目だった
歴史の転換点だった

危機の前と後では全てが変わった
政府や大企業に対し
僕らの家族の棺を目の前にし
あまたの集会
あまたの歌で
銀行からの督促状
解雇通知
強制退去通知を手にし
最後の気力を振り絞り
もううんざりだと僕らは言った

失うものがない人
すべてを失った人
もうこれ以上何も失いたくない人が
もう沢山だと言った
世界中ですべてを揺さぶる
不思議な興奮が高まりつつあった
もう二度と繰り返してはならない

元の生活に戻るために
社会の体制の穴を塞ぐことが
解決策ではないこと
その穴に
本来あるべきだったものが
創り出すべき新たな世界であること
そう気づく人が増えた

ずっと前から
地球は僕らに
立ち止まるよう求めてきた
そして今回もそうだった
僕らは自分達の命を犠牲にしてしまった
個は全体の中にあり
また個の中に全体があることを
僕らはわかり始めた
僕らの生活様式は
地球を破壊するとともに
自分自身を破壊していたことを
僕らはわかり始めた
この大量消費主義と
飽くなき発展主義は
もう続けられないことを分かり始めた

地球上の生物は
みんな平等だと理解すること
一貫性を持って行動すること
幸せと豊かさ
社会的平等の新たな規範を
推し進めること
すべてを変えることを
僕らは理解し始めた

春の初日に雪が降るように
この出来事は
変革の前兆のようなものだった
今日「新たな多数派」と呼ばれる
新しい生き方を求める運動の誕生を見て
胸が熱くなった
安全を名目に
基本的人権さえも切り詰め
厳しい規制を行う
保守的な社会を作るのではない
新しい生き方とは
生活を中心に置くことだ
そんな新しい世界を創るには
たゆまず 終わりなく
永遠に戦わなければならない

世界にはもう選択の余地はない
僕らの人生は一度きりなのだ

もう沢山だという人達が
ますます増え
「生活革命」が始まった
僕らは責任を追及し
時が経つにつれ
政府はあちこちで倒れ始めるだろう
僕らが
自分たちの生活を変え始めたのだ

それは簡単なことではなかった
だが恐れや痛み 怒り 生身の経験
必要性 愛情 夢や自覚が
一緒くたになり
僕ら一人一人の中で
抑えきれない力となっている
そして人々をつなげ
世界を動かしていく

今はすべてがすっかり変わっている
僕らは完璧ではない
生きるというのは終わりなき営みだ
でも月日が経っても
「大きな教訓」を
忘れたままにしていない
今 僕たちの娘は
生活を中心に置くことができた
世界のちっぽけな場所に生まれた
彼女たちこそが今の生活の中心だ

伝染病のワクチンができても
僕らは諸悪の根源を
完全に断ち切ることにした

歴史を繰り返さないよう
学校では
「大きな教訓」が教えられている

時は経った

その時は無理だと思われていたが
僕らにはチャンスが見えた
僕らは信じて戦った
そして今それが
僕らの正常な世界になった

今日 春の初日に
これまでの道のりを思い出した
そして僕は詩を書き始めた
4月の美しい一日が始まるらしい
外で遊ぶ子供達の声が聞こえる

僕らは世界を変え続けている
夢のようだが
決して夢ではない
今日も川の流れは澄んでいる
そしてあの日々の中
多くの人のために書いた
すべての詩は
まだ僕の手元にある
心の中にしまってある

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